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2012年10月31日(水) 

更新する余裕がなくて申し訳ない日々ですが、そんな中W(旧)さんからいくつか小話をもらったのでじわじわアップしていきたいと思いますヒャフ−!ありがとうW(旧)さん!!コラボダイニング楽しみね!!!

河童の川流れ

 ある日、女の子が何となく川を眺めていると、水面からざぱっと子供の顔が出てきた。
 鼻から下は水の中だが、銀髪の先が赤にかわる珍しい髪の色と特徴的な三白眼を女の子は知っていた。
 爆神さんのところの、と呟くと、顔が女の子のほうを向いた。まさか声が届くと思わなかった女の子は驚いた。鶏冠のようにぴよんと立っている髪が水に濡れてぺたりと寝ている。
「じーちゃんとこのおんなのこだな」
「そうですわ、ヒヨコさん。なにをしているのですか?」
「かっぱのかわながれだ」
「……おぼれておいでですの?」
「ちがう! かっぱのようにかっこよくながれているんだ」
 それが溺れることと何が違うのか女の子にはわからなかった。しかし子供は流れる水の中ですいすいと自在に泳いでいる。「河童の川流れ」は名人でもたまに失敗するという意味でだと女の子は思っていたが違うのだろうか。
「かっこよくおぼれるということですの?」
 子供は飛沫も立てず抜き手で泳いで女の子のほうに近づいた。なるほど河童もかくやと言っては褒めすぎだが、泳ぎの上手である。しかし溺れてはいない。
 三白眼がそんなこともわからないのかと言うようにすがめられた。
「おぼれてどうするんだ。ながれるっていったろ? じゃあな、おれはもういくから」
 長い髪をさらりと揺らして、女の子は考えたが、やはりわからなかった。女の子は多分河童より泳ぎが上手で溺れたこともなかった。きっとこれからもないだろう。
 子供曰く溺れるではなく、流れる。溺れるに近い何かだろうか。水の中で女の子が出来ないことはほとんどない。それをやろうとする子供がとても興味深く思われた。
「おねがいがあるんですけれど!」
 子供はそろそろ遠くに行きかけていて、女の子は蝉の声に負けないように頑張って声を張り上げた。ヒヨコ頭がくるりと振りかえる。
「なんだー?」
「あなたが、かわながれするところを、みせてくださいませんか?」
 子供がにかっと笑っていーよ! と言ったので、女の子もにっこりと微笑み返した。それから魚より美しく川に飛び込み、子供の目を瞠らせた。
「おまえ、やるな」
 子供の目は称賛一色だ。手放しで褒められて女の子が頬を染めた。
「ありがとうございます」
 女の子はわくわくした。足もつかない流れの中で同じところに止まるのは難しい。子供の泳ぎの技量は確かなものだ。これで溺れたら確かに河童の川流れに違いないが。

*****

 しばらく見ていたものの、やはり子供が何をやっているか女の子にはわからなかったが、くるくる変わる子供の表情を観察しているだけで十分に楽しかった。
 水流をぷかぷか浮かんだり、鮎のように水の中を鋭く曲がってみたり、そのたびに難しい顔で首を振っている。
「なあ」
 ぼんやりと水の流れに身を任せていると、急に声を掛けられて女の子は驚いてぱちぱちと瞬きした。少し悔しそうな子供の顔が目の前にあって、もっとびっくりする。
「おまえ、けっこうながれるの、うまいな」
「私が、ですか?」
「ずるい!」
「ごめんなさい」
 思わず謝ってしまったものの、泣き虫の女の子は思わず笑ってしまった。からりと言い放つ子供に嫌みがまるでなかったからだ。でもやっぱりよくわからないので、かっこよさについては子供に任せることにした。
「よくかんがえたんですけれど、やっぱりながれるってよくわからないんですの」
「ながれてるのにか?」
「じぶんではわかりません」
 困ったように女の子が言うので、うーんと首を捻った子供はぐるぐると周りを見回した。それからぴっと指差した。
「あれだ!」
 子供の指先にあるのは、水面を滑るように流れていく笹の葉である。上流に枯枝でもあるのか、次から次に流れてくる。どこにでもある光景だ。女の子は首を傾げた。
「ささのは?」
「あれがながれるだ!」
 ばーんと腰に手を当てた子供は、うわっと慌てた声を上げて水に沈んだ。
 とっさに差し出した手が強く掴まれて、子供の顔が現れてぷはっと息を吐く。
 飛沫が上がると笹の葉は波に揉まれてくるくる回り、水面を滑るように流れて消えた。
「な?」
「……たしかに、ながれていますわね」
 水の流れには逆らわず、なめらかに、というというだけでは水に翻弄されるだけで笹と一緒だし、その上で自分を失わずという泳ぎのこと、という意味合いであれば、腑に落ちた気がした。流れそのものになることは、女の子にとっては当たり前すぎて意識に上らせるまでもないことだったが、水と近いものでなければそれはたいそう難しいことだろう。正反対の性質を持つはずの子供に教えられるとは思ってもみなかった。
 自分のことを深く深く考えるのも大切なことだと蘇神に教わったばかりだ。それがきちんと慈母の力を使うことにつながることを。
「わかりましたわ。およぎのごくいですのね」
「ごくい」
 極意の意味を子供は絶対にわかっていなかったが、格好いい言葉の響きに思えたのだろう。その言葉を噛みしめるように言うと、目を輝かせた。気に入った様子である。
「でもなぜ、かっぱですの?」
「かっぱかっこいい!!」
「そうですか?」
「そうだ!! かっこよく! そしてごくいだ!」
「どういったものなんでしょう」
「きっとかっこいいんだ!」

 そしてまた子供は意気揚々と「格好いい極意な河童の川流れ」に取り組んだのであるが、何かを思いついたらしく、「おれはしゅぎょうにでる。ひとりでいかねばならぬ」と女の子を置いてすいと泳いでいってしまった。
 女の子は最後まで見守ろうと思っていたので、残念な気持ちになったものの、おとなしく子供を見送ったのだが。

*****

 しかし、どこかへ旅だった子供はすぐに戻ってきた。
「な、なにがあったんですの?おけがでもなさいましたの?」
 首を振った子供が暗い顔をしていたので、女の子も顔色を変えておろおろとした。
 三白眼がきゅうっと閉じられて、端から涙がぼろぼろとこぼれ落ちる。
「うぅ、ぐずっ……いっしょうけんめいながれてみたけど、カッパのきもちがわからなかった……おれにはヒヨコのきもちしかわからない…………かっぱのきもちがわからないのに、かっぱのかわながれができるわけがないんだ……」
 今更である。
 歯を食い縛ってさめざめと泣く子供を女の子は困った顔で見つめた。
「おれはなんてだめなヒヨコなんだ……」
「そんなことないですわ。わたしにだってかっぱのきもちはわかりません。あなたは今の力をけんきょにうけとめてらっしゃるんですもの。なかなかできないことですわ。あなたはつよくてりっぱなヒヨコですわ」
 子供は顔を上げた。
「おれ、つよくて、りっぱ?」
 目に輝きが戻っている。褒められただけで立ち直る程度に単純なのである。
「ええりっぱですわ。さっきのれんしゅうだっておてんとうさまにもはじぬりっぱなかわながれでしたわ」
 川の水だけでない水で濡れた顔を、生傷だらけの手が無造作に拭う。
「おれ、やる」
「ええ、がんばりましょう」
 二人で手を合わせたところで、子供が下を向いた。
「お、いいのがきた!」
「……いけません! これは!」
 女の子の制止を聞く間もなく、子供は手を離して、水の中に潜り込んだ。
 女の子も慌てて後を追う。案の定、子供が流れに体を取られて、もがいていた。つまり溺れかけていた。
 速い流れに、女の子でも思わず体を持って行かれてしまいそうになる。子供の耳元で声を張り上げた。あまり遠くまで音は響かないし、耳の中で水音がごぼごぼ煩いはずだ。そもそも意識がいきちんとあるかどうか。女の子はほとんど泣き出しそうになりながら、でも緊張のあまり、涙は出てこなかった。ばくばく、と音が煩くて自分の声もよく聞こえない。
「……こえますか。私のことばがきこえますか」
 子供がもがきながら頷く。ちらりと向けられた目は、ままならない体が歯痒そうで、ということは余裕があるということだ。女の子は少しだけ安心した。震える声で続ける。
「この水のながれは、川の底を流れるもので、のまれるとうえに上がれなくなるのです。このままではあなたの息はもちません。いまからいうことをよくきいてくださいね」
 顔をひねってもう一度頷く子供の口から、ごぼりと大きな泡が漏れた。息は苦しいようだが、意識はきちんとある。そして、子供は冷静さを失ってはいない。
「まえをむいていて! いいですか!?」
 思った通り、突然水面から棒きれが飛び込んできてくれたように、女の子には見えた。
 子供にも見えていたかどうかは、分からない。
「今です! 手をのばして! つかんで!!」
 それでも、子供の両手が懸命にのばされて棒きれに触れるや否やぎゅっと握り込むと、女の子が魚のような素早さで身をかわした。
 次の瞬間、子供の体が真上に引っ張りあげられた。
 水面に顔を出すと、宙づりになった子供の体からぼたぼたと水が落ちてくる。
 それを避けてすい、と岸に近づくにつれ、ばくばく、と煩い音は段々と静かになっていった。女の子が胸を押さえると、それは自分の心の臓の音とわかった。
 川のせせらぎが近くに聞こえるようになったとき、聞き慣れた、呆れたような老爺の声が耳に飛び込んできた。思わず涙が零れたが、心配をかけると思って、急いで拭った。
「ほほう、ずいぶんけったいな大物じゃな」
「じじい!!」
「何をしておるのじゃ」
「かわながれだ!」
 釣竿にぶら下がったまま、子供は器用に胸を張った。
 たしかに、かなり危ういところではあったが立派な川流れだった。正に水と一体化していた。エラがあれば立派な魚になれたろう。肺では息が続かないのが惜しいことだ。
 子供は常と変わらず元気いっぱいである。水滴を水面に撒き散らし、だらだらと顔を伝う水に構う様子もなく、さっそく釣竿にびよんびよんと反動をつけて遊んでいる。
 釣竿はぎしぎしと嫌な音を立てた。
「まさに流れておったな」
 蘇神が女の子に言う。
「お主まで何をしておるのだ」
「かっぱのように川流れしたいとおっしゃるものですからお手伝いですわ。でも私たち二人ともかっぱがかわながれしているところを見たことがないので、むずかしいんですの」
「……そうであろうの」
 とりあえず頷いた蘇神に、女の子のきらきらと潤む瞳が向けられる。
「まあ! どうしてわかりますの? おじいさまは見たことがおありですの?」
「ないがそれくらいは判るわ」
「このかた、およぎがとてもおじょうずなんですのよ。エラがないのがもったいないぐらい」
「エラ? なんだそれ、かっこいいな!」
「ヒヨコにエラがあるものか」
 鼻で笑った蘇神に、ヒヨコが噛みついた。
「よゆう? よゆうなのかじじい! いまにみてろよ! おれ、もっとたんれんする!」
 溺れかけたというのに、元気なことだ。きっと次はもっとうまくやると燃え上がっているのが丸わかりである。そして、最後までつきあうという女の子の気持ちにも変わりはなかった。
「あら、そうですわ。もっと上のほうにいってみたらいかがでしょうか。ながれがはやいのできっといいかわながれになるんじゃないかしら」
 子供の意識はすぐに蘇神から逸れて、すでにいかに格好良く流れるか考える顔である。
「よし、いこう!」
 女の子の手が子供の背に添えられる。
 蘇神が釣竿を持ち上げる素振りを見せると、子供はパッと釣竿から手を離した。
 派手な水飛沫が上がる。
「よく励めよ」
「よゆうでいられるのもいまのうちだからなっ」
「ふぉっふぉっ、お主と喋ると頭が痛くなるわい。これ」
 蘇神が女の子を向く。
「はい、おじいさま」
「あんまり遅うならんようにな。爆神には言うておく故、そのうるさいのも家に連れ帰るがよい。飯の用意はしておく」
「ありがとうございます」
「じじいはかわながれしないのか」
「せぬわ」
「にげるのか!」
「釣り場を変えるだけじゃ。お主のように喧しくては釣れるものも釣れぬ」
「おそれをなしたのか」
「あほう。おかず抜きの飯になってもよいか」
 呆れ顔で立ち上がると、釣竿を担いで蘇神は川を背にする。
 川遊びは子供のものじゃからなという呟きと忍び笑いは、蝉の声に混じって二人の耳には届かなかった。

そういえば復興支援コラボプロジェクト立ち上がってますね。
絶景版に合わせていろいろ動いててそわそわ。


2012年10月17日(水) 

うおっなんか拍手コメントでご心配頂いちゃったんですけどもぐりっぱなしですみません!ただいま絶賛別件修羅場中でございます。
脱稿したら浮上して本格的に冬の準備はじめますよー!

こないだ募集させていただいたネタ案のほうもご協力くださったみなさまありがとうございました!
めっちゃ参考になりました(*´∀`*)がんばるぞおおおお!!!


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