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2014年/01月 

2012年03月30日(金) 

ちょいとご連絡のために浮上ゴボゴボボ。

年度越えてハッピーニューイヤーもないだろうってことで、4/1以降に通販お申し込み頂いた分からはポストカードお付けしません。
もし通販ご利用予定の方で、ポストカードも欲しいという方がいらっしゃいましたら31日中にお申し込み下さい。

あと筆ぶくろが一件キャンセルになりそうなので、月曜日にこっそり通販再開しときます。


2012年03月22日(木) 

風ノ旅ビトすごくよかった…_:(:3」 ∠):_のでちょっと浮上して宣伝をば(笑)
一日一周プレイしたくなるゲームです。いとしさとせつなさとこころづよさと。
神州平原ひたすら駆け巡るのが好きな人にはきっと合うんじゃないかなあ。


別件はちょっとずつ進めてるところです。早くスパートかけられるところまでいきたいな…。


2012年03月12日(月) 

ちょいとお手伝いで不在です。


2012年03月11日(日) 
>>ソフィー クレーン様
応援ありがとうございます!楽しんで頂けているのならとても嬉しいです。これからもがんばります!(´∀`)Thank you very very very much!!!

2012年03月10日(土) 

お申し込みが在庫数に達しましたので、筆ぶくろ通販締め切りました。
今回はキャンセルがなければこのまま終了となります。
本の方は引き続き通販受付中です。


2012年03月09日(金) 
>>わたあめ様
メールで返信させていただきましたのでご確認下さい。

2012年03月07日(水) 

続きまして「よるのいろ」のシバタさんから頂きました、筆まとめ二式の感想画です!!!!!(※ネタバレ回避で畳んでます)


禿




~
   〜
      _ミ(:3」 ∠)_
しょっぱな目に飛び込む黒歴史に噴き、授乳(違)に萌え、筋肉暖房に転がり、忍び寄る黒い影(笑)に震え、慈愛の微笑みにときめき、ラストでユミユミと一緒になって狼狽えてもうなにがなにやら…!!!!?!!??
とりあえず私も慈母の胸に顔をうずめたいです!!!
シバタさんほんとうにありがとうございましたあああああ!!!!!!

2012年03月07日(水) 
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話部屋の田鰻さんからまたまた頂きましたよウッフフー!
さすが不遇な人物を書かせたら右に出るものはいないと(私の中で)定評のある田鰻さん、腹筋と涙腺崩壊余裕でした!!
なんといいますかこう、対人運が悪いとはこういうことか、と。
凍神が幸せ見つけるには冬の間にかまくらの入り口塞いでマッチ擦るしかないんじゃなかろうか…。神様なので一酸化炭素中毒の心配はご無用です。

そんなわけで田鰻さん、本当にありがとうございました!!!!!


その日、燃神は凍神の庵を訪れていた。
このふたりが互いの住処を訪問するのは、珍しい事ではない。慈母の元に集う筆神といっても、
そこは個々の人格持ちであるからして、付き合いの程度には差が生まれる。そんな中で燃神と凍神というのは、
火と氷という相反する通力を司りながら、不思議と歩調が合うのであった。性別が同じであるからか、
外見年齢が似通っているからか、互いに大人であるからか、世話焼き屋と不器用男という性格の相性の良さ故にか、
理由はひとつには定められないのだが、理由は何であれ余計な事にまで頭を回さずに話のできる、気楽な相手であるのは確かであった。
季節は秋。暖気が勢力を増す夏でもなく、寒気が勢力を増す冬でもないその中間の、職務面でもこれまた気を抜く事のできる時期。
入り口を潜って控え目な歓迎の言葉を受け、暫くはああだこうだと取り留めもない話題に終始していたのであるが、
ふと気になったとある事実に、燃神は煙管から口を離した。
燃神は凍神の元を訪れる。それ自体は珍しい光景ではなかったのだが、今日はそれとは違った、少しばかり珍しい光景が燃神の前にあった。

「凍兄よォ、そいつは何だい?」

別に遠慮するような事でもなかったので、何気なく燃神は聞いた。
小粋な仕草でひょいと煙管の先を向けて指したのは、よくよく思い返してみれば燃神が庵に入った時から、
凍神が両手で持っていた小箱であった。外見は特筆すべき特徴もない、ただの小さな木箱である。
後生大事に命綱たる瓢箪と盃を抱えている幽神、自称たしなみとして化粧道具や髪結い用具を肌身離さない風神らとは異なり、
凍神が小物類を持ち歩いている姿は見た事がない。今も室内片隅に立て掛けられている法螺貝は手放さないが、これは小物というよりも大物だ。
それは、凍神とて小箱くらい持つ事はあるだろうが、気になるのは話の最中もずっとそれを手放そうとしない事だった。
単に燃神の来訪でどこかに片付ける機会を失したままなだけかと思いきや、そういう事情でもなさそうである。
しかも、たまに箱に向かって小声で話しかけている。巣から落ちた鳥の雛でも入ってんのか?と疑い、
すぐにそれはないだろうと否定した。保護者が凍神では、どんなに注意していてもうっかり凍えさせてしまう危険があるし、
もしそんな事になっているなら、真っ先に他の誰かに知らせるか、届けるかしている筈であった。
だからまあ、聞いたのだ。同じ状況に置かれれば、誰だって聞くだろう。
そして、ああと顔を上げた凍神から返ってきた答えは、

「これはね燃さん、幸せの貯金箱なんだ」
「…はァ?」

である。大口を開ける他の反応が出よう筈もない。
まず彼らは金銭を持たない。必要が全く無いとあっては、通貨など発生しようがないのだ。
だが金銭の概念まで知らない訳ではなかった。人間達の間でそうした物が流通している事や、その役割くらいは頭に入っている。
となれば、なんだって凍神がそんな物を持っているのか。第一、貯金箱というからには金を入れるものだろうに、
幸せの、とはどういう意味か。幸玉を求めるのは、どちらかといえば彼らの主である慈母である。
そもそもこいつに幸せってあったっけ、と最後の辺りはだいぶひどい事まで思いつつあった燃神の前で、
そんな内心などに構いもせず、ふふ、と凍神は実に穏やかな微笑を浮かべた。それを見た瞬間、何故か胡座をかいたままの身体が勝手に後退る。

「その日、いいなあ、良かったなあと感じた事が少しでもあったなら、
この箱にそれを囁いて貯めておくんだ」
「え…あ? …え? ………えー…そ、そうかい…」
「そうして、辛い事や悲しい事、疲れる事があった日に、そうっと中身を取り出して元気をもらう。
そうすれば打ち消しあって、暗い気持ちなんてどこかへ行ってしまうからね」
「……………」

沈黙。海よりも深い沈黙。
詳細を知れば、幸玉とかそういう次元の話じゃなかった。
幸せって具体的な物体として掴めるもんじゃないし、貯めておくとかできないだろと笑ったりあるいは呆れながら突っ込む事など、
己のかました発言に、やたらと満足そうにうんうん頷いている凍神を見ていると到底できたものではない。
突然季節がひとつ飛んだかの如く、冷や汗ならぬ冷えた汗を額に首に背に垂れ流しながら、おそるおそる様子を伺うように燃神が首を傾げる。

「あのー…な? 凍兄よ…」
「なんだい? あ、燃さんも良かったらやるかい?」

潔いまでに迷いのない笑顔だった。千切れそうな速さで燃神がぶんぶん首を横に振る。
これが咲ノ花神やその弟達であれば、また暇に任せて妙ちきりんな遊びを始めたのかと納得するところだ。
時に迷惑し、時に和ませてもらった彼らの悪戯を、燃神は今ほど懐かしく感じた事はない。
だが繰り返すが、凍神である。真面目さと融通の利かなさと不器用さと要領の悪さと、それ故に舞い込む不遇が持ち味のような凍神である。
どんなに背中がくたびれていても萎れていても、常識だけは保っていた凍神の一線を超えた奇行に、燃神は彼の本気を悟り、戦慄し、そして思った。

やっべえ、とうとうこいつ壊れた。

と。



「…って訳でだ、どうにかして俺らの手で、あんな箱が必要ないようにしてやらないといけねェ」

俺ら、と燃神が全体を指して言ったのは、珍しく全体会議であるからだ。
緊急招集に応じて、ずらりと勢揃いした一同。といっても当たり前だが凍神当人は抜きであり、
総大将たる慈母は早朝から行方不明らしく連絡がつかなかった。行方不明というと何やら大事のように聞こえるが、
どうせ山に潜っているか森に潜っているか泥に潜っているかのどれかであろうから放っておかれる。タカマガハラは今日も平和だった。
誰からともなく、ぐるりと円陣を描いて座った会議風景。断神は、壁神からさりげなく最も遠い位置、
つまり向かい側に陣取ったのだが、確かに距離は離れているものの結果として真正面から見つめ合う形になってしまい、
零れ落ちそうに目を見開いたまま絶え間なくかたかたと小刻みに揺れていた。壁神はといえばニコニコと機嫌良く微笑んで、
わざわざ自分の真正面に”来てくれた”大好きなおじいちゃんを見つめている。無邪気さは時として残酷である。
それはともかく、だ。ぷかりと燃神がここで一服。円形の煙が浮かんで消える。

「そもそも、凍兄がああなった原因はお前らがいじめ過ぎるからだ」
「納得いかない」
「納得いかなーい」

じとりと眇めた視線の先で、口々に抗議の声があがる。
とはいえ抗議側もまた実にのんびりした調子で、驚きや心外という様子や、これが最も大切な反省の色などは感じられない。
それが彼らの性格及び性質といえばそうなのだが、もしかすると本当に分かっていないのかもしれない。
燃神としても真剣に責めている状況ではないのだから、彼らの態度が適当だからといって怒り出したりはしないが、
自覚がないというのは恐ろしいもんだとつくづく思わされた。
それに、と、今度は矛先を自分達年長組の方へと向ける。会議とはいうものの主題は今しがたの抗議組であり、
まさか自分達にまで話題が及ぶとは思っていなかったのだろう。数名が、おや、という顔をした。

「いや、こいつらばかりを責めてもいられねェって。
苛めるまではいかなくても、俺らもついつい凍兄に任せたり押し付けたりそっけなくしちまう所はあった」
「それはしょうがないだろ。いい大人に誰も彼もベタベタ世話焼いてたら逆に気色悪いよ」
「ベタベタは行き過ぎとしても、サラサラカサカサの乾燥肌にまでなっちゃったのが問題なんじゃないかしら?」

つい横から口を挟んでしまった弓神に、風神が美容の見地から意見を述べた。
割合に的確な例えであったので、すんなりと受け入れられる。凍っているのに乾いているとは難儀な話であった。
細かい事が積もり積もってという事かいの、と、どうでも良さそうに、半分眠ったような嗄声で蘇神が呟く。
どうでも良さそうというか、たぶん本気でこの事態をどうでも良いと思っていそうな事には、あえて誰も触れない。煙に巻かれるだけだから。
つまりは大人だって、たまには目に見える形での優しさが欲しいという事である。
あくまで無表情を貫いたまま、低く渋い声音でぼそっとそんな内容の核心を口にしたのがよりにもよって撃神だったので、
そのあまりの似あわなさに数名がやや引いた。
というかまさかお前も日頃そう感じているのかという怖い考えが浮かんだが、真実を知るだけの勇気が無くて誰も聞けない。
暫し沈黙。言い出しっぺであり自然と進行役を買っていた燃神が咳払いをして、停滞しかけた話を先に進める。

「あー…つまり、箱に幸せを貯めこむようになった凍兄を…」
「改めて言葉として聞くと相当まずいわね」
「まずいのである」

断神が合いの手を入れた。
その大きな目は、相変わらず直線上にいる壁神を見据えている。そのせいか適切な合いの手のようで、何やら違う意味にも聞こえる。

「…そのまずい凍兄に対してだな、こう、優しく、穏やかに、常識的な態度で接してやれば、
そんな危ねえ代物が要らなくなって、元に戻るんじゃねェかと推測できるってえ訳だ」
「凍兄…かわいそう…そんな事になって…」
「哀れむんじゃなくて優しくするのな、壁の嬢ちゃん。そこ間違えっと余計に落ち込ませかねねェからよ」

かくして方針は決まり、続いて具体策の検討へと入った訳であるが――。
そもそも、優しく穏やかに常識的に接すると言ってもだ、
年長組を主として、普段からそこまで凍神にきつく当たっても、ちょっかいを掛けてもいない者達も多い。
そこは元々の性格であったり、大人であるが故に思った事を何でもかんでも表に出していては集団が成り立たなくなるという、
基本的な判断に基づいてであったりするのだが、とにかく無関心組含め、彼らがあの苦労性優男の胃痛の原因になっていないのは確かであった。
そうした連中が殊更柔らかい態度で接したとて、然程の効果は期待できない。
せいぜい、おや今日はいつもより親切だな、程度である。それはそれで慰めにはなろうが、
凍神の人生観をひっくり返すまでには至らないだろう。いや別に人生観ひっくり返すのが目的ではないのだが、
ああだこうだと話し合ううちにいつの間にか趣旨が変わっていた。予想外に場が盛り上がりすぎていた為、勢いに紛れて誰もそれに気が付かない。
若干名気付いていた者もいたが、ボケ老人とくそじじいと酔っぱらいだったので、当然の如くすり替わりの件は放置されて終わった。

よって狙いは問題児どもに絞り込まれる。
悪党が子犬を助けると凄く良い人に見られるあの効果を狙ってだ。つくづく普段から真面目に過ごしているというのは、得であり損でもある。
この不名誉極まる選別に引っかかったのは、桜花三兄弟と弓神であった。誰もが納得の人選であろう。
幽神もまた凍神にとっての問題児ではあるものの、参加させたが最後事態が悪化する未来しか見えなかったので、候補からは除外された。
そして最後に違う意味での問題児として、濡神が選ばれた。私ってそんなに問題だったのでしょうか…と、
さっそく泣き出しそうになっていたのを、慌てて風神が言葉をぼかしつつ制止に入る。
まあ、凍神が濡神にホの字であるというのは、そのあからさまな態度から当人除き公然の事実である訳で、
つまりは皆の連続優しさ爆弾によって気分上昇、症状回復に向かった所で、仕上げに濡神から特上の一言二言でもあれば、
衝撃と歓喜で一挙に天まで舞い上がった挙句に何かが覚醒して地水火風氷の五大属性ぐらいは身に付けるのではないか、と考えたのである。
さっそく壁神が自前の白屏風を取り出し、絵筆で即興の「氷の外套を身に纏い、背には業火を燃え盛らせ、
割れる大地とそこから噴き出す水の奔流を背景に、掲げた片手で自在に風を操っている五大属性持ち凍神」を描いてみたのだが、
なんか微妙にかっこよかったので子供達からは盛大な喝采を以て迎えられた。

ともあれ、このような具合で凍神しあわせ計画は開始された。
失敗する結末しか見えないがなあ、と、会議が始まってからずっと子供の世話に忙殺されていて意見どころではなかった爆神が、
ようやく落ち着いた我が子達を腕の中に、最もな意見を述べたのはあえなく黙殺された。
別段無視されたのではなくて、そんなん皆薄々わかっちゃいるけれども、とりあえずやってみようぜという勢いが勝ったからである。
これはこれで愛されているとも言えるが、当の凍神にしてみればもっと別の愛し方をしてくれと嘆きたいところであろう。




ここでひとつ、弓神という少年の人となりについて述べる。
一言で語るならば、素直じゃない、である。本当の意味で素直じゃないのは慈母にのみ限定されているのであるが、
それ以外の者に対しても、その表現は当たらずといえども遠からずといったところだ。
他に、生意気だの口が悪いだのといった評価もあるにはあるが、それらはあくまで表面上のものである。
その証拠にといおうか、どんなに冷たくあしらわれようと桜花三神や壁神までもが彼に絡むのをやめないのは、
最後の最後にはなんだかんだ言って彼が付き合ってくれるのを知っているからである。
不平不満を隠そうともせず、しかし頼み事を断るという事を知らない。
好意や親切心を直接表に出すのが苦手なうえに嫌いなだけであって、無関心や無情とは明白に異なるのである。
だから、素直じゃない、なのだ。当人は何があっても決して認めようとはしないだろうが、本質では燃神や撃神と同じ世話焼きに属すると言える。

という訳で、決断までは投げやりだが、一旦やると決めれば弓神は早かった。
積極性があるのとは違い、単純に面倒くさいからさっさと済ませて帰りたいだけなのだが、
本気を出した弓神の行動は素早く、また目的完遂を目指し徹底している。当人に言わせれば当たり前である。
迂闊に手を抜いて、やり直しにでもなったりしたら目も当てられない。
どうせ今から反対したってこの馬鹿馬鹿しい方針は覆らないのだから、だったらさっさと与えられた役割を果たしてしまうのが賢明というものだ。

「やあ、おはよう!」

物凄い爽やかな声と笑顔が発動した瞬間、ぶばあ、と凍神は変な液体を吐いた。
その反応に頬を引き攣らせつつ、あくまで散歩途中に偶然出会った、の装いを崩さないように弓神は務める。
相手は、それどころではないようであったが。

「どどっどっ、どどどどどどどど…」

まるで壁神にじゃれられた断神である。
どうしたんだ、と続けたいのであろう事を察し、弓神が助け舟を出す。何をやってるんだ僕は、という尤もな虚しさは握り潰した。

「気持ちのいい朝だね、ど…凍神。
秋は過ごしやすいし、食べ物はおいしいし、僕は好きだな!」
「そそっそうかい…? そうだね、うん、俺もいいと思うよ、秋は。とてもいいと思うよ」
「あっ、そうだ。よかったらこれ、もらってよ。
僕が今朝ついた餅で作った団子なんだ。まだそんなに時間も経ってないから、柔らかくて最高の味だと思うよ」

にこやかに、弓神は小さめの紙袋に入った団子を手渡した。
非常にぎこちない手付きで、凍神がそれを受け取る。袋の端がピシピシと凍ったのが見えたが、弓神とてそこまでの面倒はみられない。
互いに悪夢でしかない時間が早く過ぎ去ってくれとだけ願っていた。とにかく自分は打ち合わせ通りにやったのだから、後はもう知った事ではない。
団子の入った袋を握り、硬直して立ち尽くす凍神の脇を通り抜けつつ、とっとと行けというようにポンと軽く背を叩く。

「じゃあね、凍神」
「う、うん…あ、ありがとう…」
「あはは、お礼なんていいよ!
だって、いつも僕ら凍神の世話になってるからさ、むしろお礼を言わなきゃいけないのは僕の方だよ。
本当に感謝してる、どうもありがとう!」

ヒッ、と凍神の喉の奥で引き攣ったような音がしたのは、聞こえなかった事にする。
やれやれ終わった終わった、と、夢遊病者の如き足取りで去っていく凍神の背を見送りつつ、弓神は幾らかじじくさく肩など揉んでみる。
それにしてもあの動揺っぷりはないだろ、と思う。天地が今この場で逆転したとしても、もう少し冷静に対処できるに違いない。
ほんのちょっとだけ、普段接する態度を改めてやるべきかもしれないと弓神は考えた。かといって反省はしないけれど。
事が順調に運ぶか見守る為という名目で、距離をとってついてきていた観客達の中では、数名が痙攣混じりの呼吸困難を起こして死にかけていた。



「なんだったんだ…いったい…」

常世と現世の狭間に精神を揺蕩わせつつ、凍神は呆とした呟きを漏らした。

「これは夢…悪夢だろうか。はっ、いつの間にタカマガハラにタタリ場が!?」

当人が聞いたらまた激怒しそうな独り言を発している凍神の心情は、だが割合に真剣であった。
心ここに在らずといった様子で、当て所なくフラフラと神の地を彷徨う。
ちなみに団子はすっかり腹に収まっていた。無意識のうちに歩きながら食べてしまっていたらしい。味など全く記憶に残っていない。
空っぽになった紙袋にようやく注意がいき、やや迷ってから丸めて懐に押し込んだ時、
やっほー、と元気のいい挨拶と共に、連なって姿を現したのは桜花三神。
先程の件もあり思わず身構えてしまった凍神を、誰が責められようか。
固い態度を気にした風もなく、ちょこちょこと駆け寄ってくる次男と三男、それにやや遅れて歩いてくる長男。
めいめいが好き勝手をやっている事の多いこの地で、短時間にこうも続けざまに誰かと出会う、それも三兄弟揃ってという状況は不自然なのだが、
生憎と強すぎる警戒心が疑惑を塗り潰していた。しかし顔を合わせた以上黙ったままでいる訳にもいかず、ややあってから凍神は口を開く。

「や…やあ、元気そうだね」
「うん、僕も兄ちゃんも元気だよ〜」
「朝早いね、凍兄」
「どうしたの〜? そういう凍兄は、なんか元気ないみたいだけど〜?」

足元に固まった三人から、口々に尋ねられる。
促されるままに事情を話しかけ、うっかり声に出したら再びあの驚天動地の事態が眼前に蘇りそうな気がして、慌てて凍神は否定した。

「いっいや! 何でもないよ、本当に!
ちょっと疲れたかな、と思っただけだから!」
「そっか〜、凍兄はいっつも頑張ってるもんね!」
「凍兄が頑張ってくれてるおかげで、僕たちが楽しく過ごせるんだもんね!」
「やっぱり凍兄はすごいなあ」

蓮ノ花神と蔦ノ花神が顔を見合わせ、感心を顕に頻りに頷き合っている。
普段はこうした事に表立ってはあまり関わらない咲ノ花神までもが、それに加わっていた。
こちらはこちらで弓神とは違い、前向きな意味でやる気の塊であった。別名を悪ノリとも言うのだが。
常日頃から陽気で人懐っこい彼らだから、弓神と比べればそこまでの違和感はないものの、やはり様子がおかしい事には変わりがない。
頑張ってない季節も多いよと訂正できる気分では到底なかった。何だ、何なのだこれは。
終わったと思ったのは錯覚で、実はまだ先程の夢の続きにいたというのか。
と、快活そのものだった三兄弟の声音が、急に神妙なものになる。神妙な桜花三神。どうかしている。

「でも無理しないでね、心配だから…」
「疲れてるんだっけ? 何か、僕たちでもお手伝いできる事ない?」
「うん、いつだって凍神の力になりたいって思ってるからさ」

――凍神は。
実のところ、彼ら三兄弟の悪戯の犠牲に最も多く見舞われているひとりである。
決してなあなあで甘いばかりではない為、限度を超えて怒られてしゅんとなる事もあるのだが、
その反面、生来の気性からついつい相手にしたり受け取ったりしてしまう事も多いので、一向にこの連鎖は止まる事がなかった。
凍神と桜花三神の関係といえば、振り回される側と振り回す側、という構図が既に形成されてしまっている。
それが、無理しないでね、ときた。心配だから、ときた。悪い意味でないお手伝い、ときた。
力になりたい、ときた。あ、いつだって、も付いていた。もくもくと胸中に膨れ上がっていくばかりの、不穏と不安の黒雲。

「い、いやっ、特には…ないですよ? はい」

なんで敬語なんだよと言いたいのを全力で我慢し、頃合いかなと三兄弟は一斉に考える。
そっと交わした目配せは、見事なまでに息が合っていた。

「何かあったら言ってくれていいからね」
「僕たち、大切な仲間じゃないか!」
「あ、ありがとう…そうだね…」

またもや、どことも知れない行き先目指し彷徨っていく凍神。
浮き草のように頼りなく揺れる、今日はやけに細く見える背中にまで、頑張って、だのと、ひっきりなしに三兄弟の声援が贈られる。
些か演出過剰じゃないの、という感想はまたもや密かに遠巻きにしている見物客の間にも、当の実行者たる彼らの間にも共通していたものの、
凍兄は普段から今ひとつ自信に欠けるところがあるから、激励はこのくらい大袈裟な方が丁度いいのだ、とやめなかった。
そう聞くといかにも正当な理由のように思えるが、面白半分が多分を占めていた事は否定できない。




そしてまた、暫くの後――。

「よかったよ〜ユミユミ」
「うるっさい、二度とやらないからなあんなの! あとユミユミ言うな!」
「おめェら騒ぎすぎると聞こえちまうぞ、静かにしろィ」
「なーんか燃兄、途中から楽しむ側に回ってなーい?」
「あ、目逸らした」
「おおおおおおおおおおおおおおおお、ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ…」
「おじいちゃん震えてる…寒いの? もっとこっちに来るといいよ、ぎゅってしてあげる」
「しっ、もう始まってるぞ!」

鋭い一声により、方々へ散りかけていた注意が再度集中する。
舞台はいよいよ大詰め、佳境を迎えようとしていた。
この頃になると見物客は更に増えていた。割り当てられた役目を終えた物見高い連中や、
気が進まないというのに無理矢理引っ張ってこられた者も含めてそれに加わり、集団は結構な大所帯となっている。
これだけ気配が濃ければ幾ら離れていてもいいかげん気付かれそうなものだが、普段の凍神ならともかく、
今の放心状態では見破られる危険は無い。それって、なんだか一層追い込んでしまった気もするが。

「なんだろうね、全然元気出てないね〜」
「振り回される立場に慣れすぎちゃってて、逆にすり減ってるんじゃないの?
むしろ冷遇されてる方が落ち着いたり安心できるとか…」
「お前ら、勝手におかしな性癖を付与するな」
「そもそもこういう結果になるのは、やる前から目に見えていた気がするが」

とにかく、見守る(つもりの)一同の視線の遥か先の小高い丘の上では、凍結しない安全距離をとって向かい合った凍神と濡神。
何故ここに彼が向かったのかは謎である。推測するに、広い景色でも眺めて気分を落ち着かせようと無意識が足を向かわせたのだろうが、
そこで待ち構えていたのは濡神だったという訳で、遠くを眺める筈だった視線はいまや全力で近距離へと集約されている。
細かい表情までは判らないが、先程までとは打って変わって背筋もしゃっきりしていた。あの状態からでも、ここまで我に返れるものらしい。
愛の力とは偉大だ、と数名が思ったとか思わなかったとか、一名が酔った勢いでそれを叫ぼうとしたところを回収されて引き摺られていかれたとか。
愛が偉大なのは分かるとしても、今の凍神の浮つきまくった様子を見ていると、あまり羨ましいという気は起きない。

そんな自由極まる見物者達とは別に、当人達はというと、だ。

「――どっ、どうも濡さん!」
「おはようございます、凍神さん。いいお天気ですわね」
「はいッ、いいお天気ですね!」

離れている為、いつもの濡神よりもやや大きめの声であった。
自分の声と口調がそれどころではない事態に陥っている事については、全く凍神の頭にはない。誰だお前、と離れた場所で誰かが呟いた。
声が大きい。たかだかそんな事でも、ああ自分の為に特別な行為をしてくれているんだと胸ときめかせてしまうのだから、
まさしく恋は盲目。率直に言って客観的に見られたくない姿である。
濡神が上品に小首を傾げた。ぱらりと、髪の束が剥き出しの肩にかかる。
凍神の顔がみるみる紅潮していき、さりとて視線も外せない。まったくもって彼にとっては目と心の毒に他ならない眺めであった。

「…それにしては、お顔の色が優れないようですけれども…」

いやいや思いっきり優れまくってる最中だろどこを見てるんだよ!と聞こえた誰もが思ったが、
濡神は、あくまで打ち合わせに忠実に話を切り出しているだけなので責められない。
また凍神は凍神で、己の顔色について思考に挿し込める余地のある状態ではなかったので、つまりは結果として滞りなく会話は進んだ。

「それが、その…こんな事を言っていいのか判らないんだが…」
「話をしてみる事で、気持ちが楽になるという事もあるかもしれません」

言って、にっこりと極上の微笑みを唇に乗せる濡神。
あれが天然だったら怖ぇ、と皆が思った。ついでにその瞬間、凍神の全身が一瞬地面から浮き上がったように見えたのは目の錯覚ではあるまい。

「…ごめんなさい、相談相手が私では、頼りないかもしれないですね…」
「そんな事はッ!!」

凍神は両の拳をぐっと握り、腹から声を張り上げた。
びくっと濡神の全身が震える。目尻にじんわりと涙が浮かんだ。おそらくこれは素である。
大慌てで、そんな事はないから、と涙にやや冷静さを取り戻した凍神が告げる。

「…言ってもいい、だろうか…」
「どうぞ」
「…俺の気のせいなのかもしれないんだけど、今日、朝から出会う皆が変で…」
「変、ですか?」
「やたらめったら親切だったり、俺の身体を気遣ってきたり…。
わざわざ手作りの団子を渡してくるなんていう、自己の存在に反するような真似をしてきたり…」

弓神のこめかみに青筋が立った。くすくすと脇から笑い声。
彼らの耳がいいという他に、語る声は凍神もどうしても大きくなっている。
距離を詰めれば更なる高い効果が見込めるのだろうが、濡神をあまり凍神に近付けさせられないのは、致し方なかった。
基本は物静かで平和主義で、そして素直な彼女だが、さすがに凍り付いてまで芝居を続けてくれるとは思えない。
尤も、いまだに自分が選ばれた趣旨を良く分かっていない彼女に、芝居という意識があったのかは怪しいが。
とにかく言われた通りの事を言えばいいのですね、と考えている。まあ濡神の声が聞こえていれば何でも大丈夫だろう、凍神があの調子では。

「…それはきっと、皆が、本当に凍神さんを大切に想い、尊敬しているからではないかしら」
「お、俺を? 尊敬?」
「ええ」

濡神は綺麗な動作で頷いた。これもまた、芝居には見えない。

「いつもは慣れてしまって、あえて言葉や態度に出さなくても、考えている事は同じなのですわ。
頼りにしているですとか、感謝しているですとか、そうした秘めた気持ちを、今日たまたま表に出してみよう、と…。
皆がそう考えて、実行したのだとしたら、驚くより、とても素敵な事だって思いませんか?」
「…本当に…そんな風に、俺の事を…?」
「はい。もちろん、私も――」
「濡さん…」

凍神の背景に、思い切り花が飛んでいた。すげえ力技で桜花使った、さすが凍兄、と何かが間違っている感心の仕方をする。
目に見えて明るくなった凍神の表情と気配に、もういいだろうと思ったのか、先程から我慢できずうずうずしていた子供組が揃って飛び出した。
動きに気付いた濡神が、視線を、凍神の背中越しへと変える。
やや遅れて振り返った凍神が驚く暇もなく、蓮ノ花神と蔦ノ花神が次々にその外套に飛びつく。
勢いに呑まれたのか、どちらかといえば引っ込みがちな壁神までもが、最後にちょんと外套の端っこを掴んだ。
頭の後ろで両手を組んだ咲ノ花神だけが、長男の余裕を見せて落ち着いている。ちなみに彼の落ち着きは、良識派である事と同義ではない。

「えっ、ええっ? お、お前たちどうして?」
「わーい、さっすが真打ち登場、効果覿面!」
「凍兄、元気になった〜?」
「誰が存在に反する行為だって? まったくこの鈍牛…」
「五大属性はー?」
「五大属性って何!?」

彼にとっては唐突に現れるや否や、思い思いに喋りまくる者達に、凍神は目を白黒させた。
突飛な出来事続きで理解が追いついていかないうえに、意味不明な単語を吐く奴までいる。
年長者達は、姿は見せたものの、まだだいぶ離れた位置に並んで見守っていた。とりあえず助け舟を出すつもりは誰にも無いらしい。

「ほら、いま言ったとおり、皆が凍神さんを慕っているという事ですわ」

すかさず濡神が補足する。
目の前の光景を見て言っただけの割に、真相には触れないまま上手く事態を締め括っていた。
凍神は凍神で流されて、そ、そうかな、と呟く。
しかしながら、ひとつの実行はどんな多数の言葉よりも力を持つと言われるように、纏わりつかれる重みや引っ張られる外套の感覚は、
どんなお仕着せの慰めより雄弁に説得力を持つ。またも、そうかな、と呟いた時の凍神の顔は、
戸惑いながらもそれなりに納得をしたものであったとか。

…と、神の地にそんな小騒動があってから。
またまた幾日かの時が過ぎて、庵を訪ねた燃神がそれとなく探ってみると、凍神は幸せ貯金をやめたようで、一同をほっと安堵させた。
ただ何故かその後、件の小箱らしき物が小物入れとして使われているのが数名によって目撃されたのだが、
まあ幸せを貯めこむよりは小物を貯めこむ方が健全だろうという事で、各自が事態の完全収束を祝ったり無関心だったりしたのであった。


2012年03月07日(水) 

ふおおおお立て続けの喜びにテンションがマッハです!!!
ちょっと準備してくる…!!!


2012年03月06日(火) 
>>ぐー様
白野威バージョンはアマテラス単品の左から4つ目にありますので展示メニューからどうぞ〜\(・∀・) 新規で見たい、ということでしたら現在リクエスト期間ではないためご容赦ください。

2012年03月04日(日) 

保留になってた分が確定したので、3/5 0:00ごろから筆ぶくろ通販受付再開したいと思います。
あまり数はありませんが、どうぞよろしくお願いします。

あと、袋(ガワ)以外ちょっとずつ端数があるので、そちらも筆ぶくろ終了後に通販にまわそうと思います。発送はメール便かな?
追って詳細お待ち下さい。


2012年03月02日(金) 
>>ミヤ様
コメントありがとうございます!去年の福袋グッズ使って頂けてるようで嬉しいですv通販はそろそろまた受付再開したいと思いますので、今しばらくお待ち下さいませ。筆まとめともども気に入って頂ければ幸いです。

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