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2011年07月29日(金) 

夏のおはなしそのに。(クリックで開閉)

イエアアアアアア田鰻さんからまた頂いてしまいました!!! 神速ハンパない!!!
前回のお話で登場しなかったメンバーを、とのことで壁神のリハビリ設定を抽出して下さいました。壁ちゃん皆と合流できてよかったね…!(´;ω;`)ブワッ
田鰻さん本当にほんっとうに素敵なお話ありがとうございました!!!!!!!
さすがにもう原稿に集中するけど、脱稿したら感想画描くんだから…!!!

それにしても、並べるだけ並べておいてまともに活用できてない設定をこうしてきちんと拾ってもらえると、なんだか初心に返る思いです。
らくがきも楽しいですけど、たまにはちゃんと内容のある話も描きたいですね〜。



湖の側の、大樹の脇の藪の、そのまた向こう側の岩の影。
猫は、涼しい場所を見付けるのが上手だ。日毎に強さを増していく日差しから逃れるように、
壁神はクタッと地面に寝そべって涼をとっていた。
ちょうど湖からの冷気が流れ込む位置にあるこの場所は、下手をすれば建物の中にいるよりも涼しい。
細い手足が、むにゃむにゃと蠢く。時折唇が緩むのは、夢を見ているのか、寝言でも口にしているのか。

と、いきなり聞こえてきた湿った土の音に、耳聡く壁神は飛び起きた。
全身の鈴が、一斉にそれぞれの音色を奏でる。
眠い目を擦り擦り、ぼやける視界を足音に合わせてみれば、そこにいたのはがっしりとした体付きの、壮年の男性。
爆神だった。所々で輪郭がぽこんと飛び出しているのは、抱きかかえてきた彼の子供達だ。

「ひとりか?」
「…うん」

短くとも力強い爆神の声に半分は目が覚めて、しかし半分は寝惚け眼のままで、壁神が応じる。
それ以上は聞かずに、爆神はよいしょと身を屈めて、抱いていた子供達をその場に下ろした。
一斉によちよちと転がるように走ってきた4人の子供に、あまりにも急な展開に理解が追いついていない壁神が、
目を白黒させつつ、ひゃあとかきゃあとか叫んだ。
すまんすまん、と、あまり済まないとは思っていなさそうな口調で、爆神が詫びる。

「家にいたんだが、なにせこの暑さだろう。
こいつらも汗まみれになってしまうし、涼しい場所へ逃げてきたんだ」
「ここを知ってたの?」
「いいや。壁、お前さんの気配を探した。自分で探すより、その方が早くて確実だからな」
「ふーん…?」

動く度あちこちから聞こえる鈴の音色に興味を惹かれているのか、
ころころと纏わりつく子供達へ忙しく目を配りながら、壁神が良く分かっていないような声を出した。
爆神は辺りを眺め、改めて自分達と壁神の他には誰もいないのを確かめてから、尋ねる。

「こう言っては何だが、ひとりとは珍しいな。
戻ってからはずっと、誰かと一緒のところばかり見ていたから」
「…ん…あの、ね」
「ああ」
「また、みんなと一緒なの嬉しくて…みんなと一緒にいられるの、大好きだけど。
でもね…まだ時々、ちょっと疲れちゃう事があるんだ」
「………」
「…ひとりでいたのが、すごく長かったから。
すごく寂しかったのに、その寂しいのに、あたし、いつか慣れちゃってて…。
賑やかなのは楽しいのに、ふっと窮屈で苦しく感じる瞬間があるの。
そんな自分がまた寂しいんだけど――でも、どうしょうもないから、そんな時は、こういうとこに来るんだ」

治るまで少しこうしてれば平気だよと、自分が話しだしたのと同時に声の途切れた方向へ目を向けた壁神は、
そこに涙ぐんでいる爆神を見て仰天した。
にゃっと全身が跳ね上がり、両の耳がピンと立つ。
りりん、とまた違った風に鳴る鈴に、子供達が、おー、と口を丸く同じ形に開けて聴き入った。

「ど、どどどどうしたの!?」
「いや…すまんすまん。
お前さんみたいな子供がそんな思いを――と思ったら、泣けてきてなあ…」
「もう…体おっきいのにみっともないよ」

自身が泣き虫寄りである事も束の間忘れて言う壁神に、爆神が、尚もぐすっと鼻をすする。
爆神は、あまり感情を隠すという事をしない。隠すのが下手なのではなく、隠そうという気がないのだ。
猪突猛進の言葉の通り、揺れ幅の大きい感情に忠実なるままに、嬉しければ全身で笑い、悲しければ声を枯らして泣く。
時として大袈裟とも言われるくらいに激しい、ありのままの感情の現れ。
それこそが彼の良いところであり、またからかいの種でもある。
暫くはそんな爆神の様子に気を取られていた壁神だったが、次には彼が、
子供達を自分のもとに送り出したその位置から一歩も動いていない事を、あれ、と思った。

「おじちゃんは、こっちに来ないの?」
「行ったら狭くなってしまうよ。そいつらチビどもは許してやってくれ」

有無を言わさず押し付けておいて、許すも許さないもないものだったが、
いまだ足取りもおぼつかない赤ん坊達は、その未熟さ故にか、壁神にとって重荷にはなっていないようだった。
良く鳴る鈴や、結んだ髪や、ぴこぴこ動く耳まで使って、意外と達者に、壁神は子供達をあやしている。
そんな壁神を、爆神はまるで5人目の子供を見るような目で、優しく見守っていた。

「ここにいたのか」

耳に良く馴染む声に、はっと壁神が目を向ければ、そこには草をざくざくと踏んで歩いてくる撃神がいた。
表情に乏しく、必要以上の事を語ろうとしない、ともすれば、怖い、と受け取られがちな男を見て、
壁神の顔が、目に見えて綻ぶ。
本当なら今すぐに飛び付いていきたいのだろうが、壁神は座ったまま、まとわりつく子供達をしっかりと抑えていた。
そんなところに、今度は爆神が顔を綻ばせる。
爆神とはまた違った逞しさを持つ撃神の体躯に隠れるようにして、
その背後からヒョコヒョコと、春を司る、花の三兄弟が姿を現す。
親指を後ろに向けながら、撃神が足を止めて言った。

「こいつらが暑い暑いとな…。それで、何とかしてくれと俺の所に来た」
「どうして、にいにの所に?」

壁神は、次々に身体をよじ登ってくる赤ん坊達を忙しく下ろしながら、不思議そうに首を傾げた。
暑さをどうにかしたくて訪れるのなら、彼ではなくて濡神や凍神の所だろう。
一見無愛想とも取れる目が、壁神に向けられる。
ひょっとしたらあれ以上近寄ってこないのは、赤ちゃん達が怖がって泣くからなのかなと、壁神はふと思う。

「お前だ」
「えっ、あたし?」
「お前なら、誰よりも涼しい場所に詳しそうだからな。
そして俺の所に来れば、お前もいると思ったんだろう」
「あったりー!」
「探し回るより、そっちの方が早いもんね」
「ほら、うっかりびしょ濡れになったり凍えたりしない、安全策ってやつ?」

どうやら誰もが、考える事は同じらしい。
苦笑するような気配を、爆神が厳つい口元に滲ませた。
ついでに、頭の導火線を引っ張り合いっこして遊んでいる我が子の姿に気付き、些か慌ててみたりもする。
無闇に陽気な弟ふたりに比べれば、まだ落ち着いているといえる咲ノ花神が、軽く肩を竦めた。

「ま、結局はこうして探す事になったんだけど」
「あっ、なんかごめんね…」
「なんで謝るのさー」
「あはは、変なの!」

順に笑う蓮ノ花神と蔦ノ花神にあわせて、壁神も笑った。
その脇で、撃神と爆神が目線で挨拶を交わす。
とかく気配りと目端が利く為に、誰ともなく自然と子守役に回っている機会の多い撃神と、
正真正銘の子育て中である爆神。
立場はまるで異なれど、嬉しげに笑いかわす年少者達を見守る姿には、互いに感じるものと通じ合うものがあった。

そうしながら、撃神の眼差しと注意は、殊更強く壁神へと向けられている。
壁神の大きな黒い瞳から、かつての怯えが消えつつある事に、撃神は無言のまま胸を撫で下ろした。
もともと人見知りと人懐っこさの両極に激しいところのある壁神だったが、慈母の元で再開を果たした時には、
撃神ですら露骨に眉を顰めるほど、誰かのぬくもりと声を求めてやまなくなっていたのだ。
あれは、一種の依存に近いものがあった。にいに、にいにと片時も傍を離れず、
またあちこちを彷徨い歩いては、警戒心も忘れてしまったように行き当たった筆神に駆け寄り、大声ではしゃぐ。
兄妹と称されるほど近しく過ごしてきた相手が見せた、そんな、ひどく不安定だった時期。
あの頃の飢えを思わせる瞳の色は、だいぶ薄れてきている。
本当に良かった、と、素直に思えた。

「…しかし、せっかく壁神が見つけた場所なのに、こんなに集まったのでは暑くなってしまうな」
「んーん、けどそれもいいじゃない! ああ全員いるんだな〜って感じがしてさ」
「ははは、確かにそうだ。
なにせ皆が戻ってきてから、初めての夏だからなあ」
「うん、そうだね!」

顎を摩りながら頷く爆神に、壁神も高い声で同意を示した。
顔を上げた拍子に、髪に付けた鈴が、りん、と鳴る。

「暑いのに騒ぎまくるから、余計に暑苦しくなるんだよ」
「ユミユミみたいな言い方するなよ〜、咲兄!」
「そうそう、お小言は無しね。
それより全員入れる日陰ができるくらいの、でっかい花咲かせてよ。そこで昼寝しよう!」
「できなくはないけど、根元に実も一緒に生えるやつでいい?」
「おいしい実なら大歓迎っ!」
「…目下頑張って改良中な、目が痛いくらいの刺激臭を皮から放つやつ」
「…それは勘弁」

三兄弟の喧騒に紛れるようにして、幾分俯いた壁神が、ぽそりと噛み締めるように繰り返す。

「…そうなんだね」

また、戻ってきたんだね。
呟く最後の方は、やや涙に霞んでいた。
壁神の頭に、ぽんと撃神の掌が乗せられる。その掌は頭をすっぽり包んでしまうほど大きくて、暖かい。
にいに。
おずおずと見上げる壁神に、撃神はごく小さく、だが確かな微笑みを浮かべる。
すぐ傍まで来ていた爆神が、先を越されたなあ、と豪快に笑った。

長い長い年月、ずっとひとりだった。それはみんなも同じだけれど、だから我慢しなくちゃいけないのだけれど、
そう思っても寂しくて寂しくて、悲しくて、焦がれて、ずっとひとりで鳴き続けていた。
でも今は、鳴けば誰かが答えてくれる。鳴かなくても、こうして誰かが隣にいてくれる。
その事が、それこそいつまででも泣き続けたいくらいに、嬉しくてならなかった。
壁神は、太陽を一杯に受けた景色をぐるりと見渡す。
完全に元の姿を取り戻すのは、もう少し先の話だとしても、タカマガハラの夏は、いつかの懐かしい昔と変わらず暑い。
 


2011年07月27日(水) 
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夏のおはなし。(クリックで開閉)

うおああああああああ『話部屋』の田鰻さんからSS頂きましたアアアアア!!!!!
わああん擬人化扱ってらっしゃらないのにすみませんすみませんでもありがとうございますどうしようめっちゃうれしい!!!!! 誘い受けしてみるもんですね!!(どーん)
勢い余ってお礼絵という名の感想画まで描いちゃった…☆(笑)
本当にありがとうございました!!!!
ひとまずこちらに置いておきますが、夏の修羅場越えたら貰い物小説の方に格納させていただきますね。

それにしてもキャラの描写がものすごくイメージぴったりで、田鰻さんの把握っぷりハンパないです。これが筆力というやつか…!
「なんだかんだで有事の際にはすごいかっこいいリーダーだって信じてますよ凍兄…。」って言われてそういえば(一応)リーダーだったなって思い出しました(酷い)
ふ、冬に乞うご期待!


「夏である」

不運にもその場にたまたま居合わせてしまったのは数名だったが、
唯一これだけは容姿に忠実な愛くるしい声を聞いた誰もが、ああ夏だな、と納得した。
夏。彼らの主君たる太陽が誇らしく輝き、空が、海が、木々が葉が大地が、持ち得る最も濃い色に彩られる季節。
夏である。今が、丁度その季節に当たるという事実の指摘。
これでは、浮かべたくとも他の感想など浮かべようがない。なので、口を開く者は誰もいなかった。
開いたとて、出てくる話題はせいぜいが、そうですね、と相槌を打つ程度が限界であろう。

「夏なのである」

今度は、ピクリと数名のこめかみ付近が動いた。
何故に、彼は繰り返したのか。わざわざ二度言うまでもなく、見渡す世界はこんなにも夏だというのに。
周囲の無反応に業を煮やしてとも思えるが、それも業を煮やすという行為に一欠片でも縁のある者が行えば、である。
ましてや延々同じ事を繰り返すというのは、とある現象を想起させるもの。そしてこちらの方には、彼は大いに縁がある。
先程よりは増えた、集まる視線の中、大きな目をした子供そのものの顔が、くるりと振り向いた。

「つまり慈母である」

確信に満ちた口調であった。
言い切る声音に茫洋さは微塵もなく、黒々とした瞳は真っ直ぐに前を見据えている。
爺さん遂に本格的にボケたかと、一同は暗澹たる思いでそれを見つめた。



詳しく話を聞いてみれば、別にそういう訳でもなかった。
嫌がる皆を代表して、というか押し付けられてというか凍神が聞き出した話を要約すると、
せっかく夏まっ盛りなのだから、夏が好きな慈母の為に我ら筆神達で何かをしてあげよう、という事らしい。
とかく要領を得ない断神からここまでの話を引き出すのは、四苦八苦どころの手間ではなかった。
真面目一辺倒で融通というものの利かない凍神だったからこそ、逆に最後まで粘り強く付き合えたといえる。
まさに適材適所。仕事の押し付け合いは結果として最良の選択を生んでいた。
ただ実際の所、慈母が好きな季節は夏に限った話ではない。 春は陽炎、秋は紅葉、冬は白雪、そして季節は巡り行く。
彼らの主たる神は、いついかなる時も天上に座する日輪そのままに、春夏秋冬すべてを等しく愛する。

が、それはそれとして、この断神にしては奇跡とも呼べる建設的な提案は、概ね歓迎された。
飽きもせず続く歳月の循環。そこに身を浸すうち次第にぼやけていく境目を、こうして確かめるのは悪くない。

「取ってきたよ」

見事なまでの仏頂面で、弓神が成果を報告する。
屈んで広げた細い両腕から、ごろごろと大量の果物が転がり落ちた。
慈母の為に何かをしてあげよう。では、慈母が喜ぶ事とは何か。
答え、食べ物を与える。
全員が即答した。およそ協調性という概念から結界でも張られて遠ざけられているのではないかと思えてくる、
個性派揃いの筆神達の意見が瞬時に完全なる一致を見せた光景は、居合わせた者たちの胸中に、
小さな感動すら呼び起こすものがあった。あまり季節と関係ないのではないかと控え目に挙手をする者もいるにはいたが、
案の定真剣に顧みられる事はなかった。誰であったのかはあえて語るまい。そして言うまでもない。

ひと仕事を終えた弓神が、やれやれと肩を揉む。
慈母に献上する食べ物を探してくる、という、ある意味で最も栄誉ある役目を果たしたにも関わらず、
その表情は芳しくない。不平そうに吊り上がった目尻を見ていれば、
彼が、面倒事を押し付けられた程度にしか考えていない事は、火を見るより明らかである。
かといって、ぶつくさ文句を言いつつも断るまではいかない所が、また彼の彼たる所以なのであるが。
単に、ごねて事態が長引くのが面倒だっただけなのかもしれない。
不満を訴えながらも仕事は完璧に果たした弓神に、パチパチと手を叩いて、幽神が率直な賛辞を贈る。

「えらい、えら〜い。よくできましたぁ〜んふふふふ〜」

率直な、酔っぱらいの賛辞を。
ちなみに幽神だけが後からの参加である。参加というか、酒片手に徘徊していて偶然一同と遭遇してそのままというか。
尤も初めから居合わせていなかったのは、断神以外の皆にとって極めて幸いであった。もしもあの「夏である」の場に、
よりにもよって泥酔状態に近い幽神がいたならば、事態がまとまるまでには更なる紛糾をみたであろう。
その場合に割を食うのは凍神である。とことん損な性分であり役回りの男であった。
おそらく半分も状況を把握していないと思われる幽神は、仄かに紅く染まった頬を、えへらえへらした笑顔に緩めている。
至福の只中にあるのは間違いない。弓神は今にも舌打ちでもしそうな半目を、そんな幽神に向けると、
やがて諦めたように長々と溜息を吐いた。

「やりたくないけど、しょうがないだろ。酔っぱらいとボケ爺と鈍牛じゃ埒が明かないし」
「だから鈍牛って言ってやんなよ。凍兄が鈍牛なのは濡さんの前だけで、普段はそれなりに頼りになるだろォが」
「そう、それなりに、ね」
「あははははは」

言いたい放題な三者の会話を背に、燦々と降り注ぐ陽光の下、凍神はひとり影を背負いつつ黙々と作業に勤しんでいた。
指を揃え、掌をかざす。冷気が渦を巻いて集中し、大人でも一抱えはありそうな氷塊が次々に作り出されていく。
どさり、とそれが草原に落ちる側から、控えていた断神が剣を振るっていった。岩の如き大きさの氷が、
瞬時に片手に乗せられそうな程度の塊に分解される。その度、透き通った氷の粒がきらきらと光を映しては散る様を、
なかなか綺麗なもんだと、のんびり煙管を吹かしながら燃神は眺めていた。
金輪際関わらないぞというような態度を示していた弓神も、渋々、杵を担いで氷の解体に加わる。
なんだかんだで、良く働く。そんな様を見透かしたかのように、弓神が横を通り過ぎざまに、凍神はフッと微かに笑った。
聞こえていたのかいなかったのか、振り返りもせずにつっけんどんに言い放つ弓神に、その笑いが固まる。

「あんまり頑張りすぎて冬になられても困るからさ、適度に手抜いた感じで頼むよ。
つまり鈍い感じね。いつもみたいに」
「ううう…」

あーあ、と、燃神が額を押さえて首を振った。
彼の位置からでは両者とも背中しか見えないが、わざわざ正面に回り込むまでもなく、
どちらの今の表情もこの上なく明確に、閉じた瞼の裏に描き出せる。
淡々と振り被っては下ろされる弓神の杵と、段々と丸まっていく凍神の背筋を見ながら、ようやく燃神も立ち上がった。

「そっちは、そろそろいいだろ。次こっち頼むぜ、凍兄」

凍神は頷くと、法螺貝を外して口に当て、極めて慎重に息を送り込んでいった。
遅々とした音声が地を這うように奏でられるにつれ、先程までとは比較にならない広範囲の冷気が、場に凝集を始める。
中央へ向かい緩やかに流れ始めた風に、燃神の羽織の裾が吸い込まれるようにはためいた。
弓神の吐き出す息が白を帯び、あらあ、という、幽神の間延びした声が聞こえる。
風は、すぐに止んだ。
一同の目の前には、見上げるような巨大な氷塊がそびえ立っていた。
高さも胴回りも、これまた先程のものとは段違いである。仮に燃神と凍神がこの氷塊を挟んで向い合って立ち、
目一杯に腕を伸ばして抱いたとしても、互いの手と手は届かないかもしれない。そのくらいに大きい。
法螺貝から口を離し、ふぅと短く息をつく凍神に、まばらな拍手が起こった。浅く頭を下げて応える彼も、また律儀である。

ここからは、燃神の仕事だ。
掌に、時には指先に灯した炎で氷を溶かして、目指す形にしていく。
筆神達が作ろうとしているもの、それは大きな氷の器に、夏の果物と砕いた氷を詰めた、何とも粋な一品であった。
冷えていようと冷えていまいと気にする性質の慈母とも思えない、そんな予感は全員薄々感じていたものの、
始まりの動機が「せっかくの夏だから」という軽いものだったのだから、
こちらの出した答えも「せっかくなら冷えていた方がいいだろ」程度の軽いもので構わないのだ。
敬意の中にちょっとした遊びを、遊びの中にちょっとした敬意を。それで、彼らが何よりも誰よりも大切とする存在は、
優しいのか嬉しいのか眠いのか良く分からない形に瞳を細めてくれるだろう。それで、充分だった。

さほど時間はかからず、器は完成した。
というより、あまり時間をかけていては、暑さと燃神の熱で溶けてしまう。
表面に彫刻を施す程の時間は無かったし、やれと求められても燃神も困惑しただろうが、
一応はそれらしい器の形になっていた。あとはここに砕いた氷と、弓神が運んできた果物を入れれば準備完了である。
溶かす前にと器から離れて伸びをする燃神に、ごくろうさま、と凍神が落ち着いた声をかけた。

「じゃ、さっさと詰めちゃって慈母呼んでこようか」
「む…これはなかなか重い、のである」
「断じいは休んでろって、腰でも痛めたらまずいから。凍兄、悪ィけど頼んでいいか?」
「ああ、わかったよ」

などと皆が話しているところへ、ふらふらと徳利を抱えた幽神が、不吉な満面の笑顔を湛えて近寄ってきた。

「あとは〜、ここにお酒を注いだら完成ね〜」
「「「注ぐなあああ!!」」」

えっこらせと大徳利を傾ける幽神に、燃神と凍神と弓神が揃って絶叫した。
それはそれで、洒落た趣向の品となりそうではあるが。



氷の器は、招かれた慈母によって一撃で破壊された。
食べるのに邪魔だったからじゃないの、と頭の後ろで手を組みながら言った弓神に、
断神だけが腕組みをして、うむ、と納得するものがあったように頷いていた。
唖然としていた燃神と凍神も、山積みとなったきらめく氷の残骸から、
転がり出した果物を拾っては満足気にもぐもぐとやっている慈母が幸せそうだったので、まあいいかと思ったそうである。
杯に満たした酒に小さめの氷を浮かべ、冷酒〜、とか何とか言いつつ呷っていた幽神も、また独自に幸せだった、らしい。


2011年07月19日(火) 

W(旧)さんがSSくれましたよひゃっほう!じじいと一緒にいるときの燃神はひよこに戻ってほほえましいですね(´∀`)
W(旧)さんありがとうありがとう!


2011年07月16日(土) 
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うわばみ-底抜け-作る方

お題完遂です。時間かかりましたがお付き合いありがとうございました〜!
夏の修羅場が終わったらまたなんか募集したいと思いますが、とりあえずしばらくは真面目に潜ります。

で、前回書きましたとおり、うちの擬人化(レギュラー&おなご)でなんか描(書)いてやってもいいよって方はこの機会に作品をお寄せ下さると嬉しいです。
テーマがあったほうがいいなって場合は「夏」コンセプトでどうでしょう。花火とか浴衣とか水着とか。いつもの設定でも現パロでも構いませんので、閲覧制限かからない程度に自由度高めで遊んでやって下さい(^v^)
完成した作品は絵板に投稿、あるいは鯖上げしたアドレスを拍手かメルフォでお知らせ頂ければ雑記に掲載させて頂きます。

自分でサイト動かせないからって他力本願乙で恐縮ですが、よろしければご協力くださいませ。


2011年07月14日(木) 

立て続けにお手伝いが入ったもんでしばらく不在でしたが、昨日帰ってきましたー。
明日くらいまでにはお題ラストこなして、心置きなく夏コミ修羅場に突入できたらいいなーという感じです。
しばらくサイトの動きが鈍くなるので、もしうちの擬人化描(書)いても良いよって方いらっしゃいましたらよろしければ絵板動かしてやって下さい。それかURL送って頂ければ雑記のほうに掲載させて頂きますぞ。私の励みにもなるのでこの機会に是非是非!(・∀・)ノシ


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