「って蘇のじいちゃまに言われたの」
「おいちゃん何のことかわかる?」
 爆神はウリ坊たちをやっと寝かしつけてほっと一息ついたところだった。
 爆神は曖昧な表情で山ほど渡された赤い実を微妙な表情で眺め、子供の手の届かないなるべく遠いところにそっと置き、戻ってきて腕を組んだ。
「うんうん」
「ま、正直こんなものといいたくなる外見ではある」
 爆神は弓神を宥めるように言った。
「まずこの実が人に見つかると呪われている証拠だの、不吉な前触れだのと騒ぎになるな。生贄を捧げるの何のという話くらいは出るかもしれない」
「そんなもの?」
「そんなものだ。食べようなんてものも居ないだろう。咲も自分で作ったものはほとんど自分で処分してるはずだ」
「え〜。しらない」
 蔦神が言うと爆神が苦笑いした。
「とはいえ人は大した問題じゃない。騒ぐだけだからな。本当に困るのは、咲の遊びのせいで、もともとないものが繁殖して、もとある草木が育たなくなったりすることだな。草を食べる生き物も困る、そしたら草を食べる生き物を捕る生き物だって困る。生きものの均衡というものが真っ向から崩れる。咲だってもちろんそれはわかってる。もしどこか自分の目の届かないところにこの実を落としたとしても繁殖しないように、こういうものを作るときは大抵種のないものを作ってるだろう?」
 部屋の隅から聞こえるおじさん顔の「ギャ」という鳴き声に爆神が気味悪そうな視線を向けた。蓮神と蔦神もつられておじさんを見た。
「そういえばおじさんにも種がなかった!」
「とはいえ、それでもどんな可能性でも全くありえないとは言い切れないからな」
 蘇じいは釘をさしたんだろうさ、と言って爆神は逞しい肩をひょいとすくめた。
「それだったら蘇のじーちゃまももっとわかりやすく言ってくれたらいいのに〜」
 蓮神が口をとがらせて言うと、爆神は笑って蓮神の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「親切なんだよ。あれでもな」
 爆神は弓神の頭にもポンと手を置いた。
「筆神が食べる分には問題ないんだろうよ。弓も駄々を捏ねずに慈母に差し上げるがいい。慈母はきっと喜んでくださるさ」
 弓神が爆神の手を振り払おうとしたとき、眠っていたウリ坊が一人起きて泣き出した。慌てて爆神が泣いているウリ坊を抱き上げてあやすと、他のウリ坊が次々に起きだしてはぐずり出した。泣き声が泣き声を呼んでとうとう大合唱になるに至って、ため息をついた爆神はウリ坊たちをまとめて腕に抱えあげた。
 男やもめの悲哀めいたものを爆神の背中に感じて、蓮神がおそるおそる声をかける。
「おいちゃん手伝おうか…?」
 爆神は苦笑して首を振った。
「いや…そしたら、今日は若い連中から酒盛りに誘われてたんだが、どうもこいつらの機嫌が悪くて行けそうにない。済まないが言づてを頼まれてくれないか?」
「うん」
「いいけど〜」
 顔を見合わせた蓮神と蔦神が弓神をちらっと見て軽く請け合ったが、案の定弓神が渋った。もうこれ以上余計なことはしたくない。
「大体何で僕まで一緒に…」
「弓、そこでその実を皆に分けてくれば慈母に渡す量も減るだろう」
 弓神が言葉に詰まった。
「悪いが、頼むな」
 爆神の大らかな笑顔と本格的に泣き出したウリ坊達を前に弓神は諦めた。異論反論あれど、早く退散しないと只の迷惑である。
 そこで、ウリ達におじさんの実を食べさせるときは――赤ん坊はおじさんの顔など気にせずに食べるだろう、むしろ「ギャ」と鳴く新しい玩具がたくさんあると喜ぶに違いない、と蓮神は手早く真面目に主張した――汚れやすいものはできるだけしまっておいたほうがいいと親切の忠告を残して、三人は爆神の家を辞した。

 家の外にまで響く泣き声の大合唱に何となく済まない気持ちで首をすくめてしばらく三人とも無言で歩いていると、蓮神が呟いた。
「言いくるめられてやんの」
「…うるさい」
 弓神は用事をさっさと済ませてしまえとばかりにずかずかと先に進む。
「蓮兄〜おいちゃんに頼まれたらユミユミでも断れないって〜」
「それもそっか。それはそうと、酒盛りだったら慈母も来るのかな?」
 蓮神は何気なく口にしただけだったが、弓神の耳がピクリと反応した。

 蓮神と蔦神は見ないふりをしてあげた。何とかの情けというやつである。

 

>>5へつづく