家に帰るとそこは嵐だった。
 混沌だった。

 怒ったところを誰も見たことがない、という爆神は、突然の暴風雨の中をきりきり舞いさせられた小舟の内部のようなもみくちゃの家を呆然と眺めた。
 台風か、はたまた断神でも通り過ぎたか。
 布という布は引きちぎられ、家の中のものというものがあらゆる場所に転がっている。食器用の素焼きの碗のたぐいだけはあらかじめ外に出してあって無事なのが、尚更質が悪い。
 彼の子供の一人が足下に「ア、アー」まとわりつくのを武骨な手で抱き上げて、破れた敷布にまみれた元凶に向かって呟いた。

「遊びに来てくれるのはうれしいんだが…」
 元凶、つまり花神の下の2人、蓮神と蔦神はうり坊たちとドタバタと転げ回りながら、ぴょこんと顔をあげ、よく似た顔でニカッと笑った。
「お帰りなさーいッ」
「早かったね〜ッ」
 部屋の真ん中にこんもり積まれた破れた布の山がもぞもぞと動いた。
 大きな裂け目からそうっと首が出て、折れた耳がぴょんと立ち上がる。鼻にくっつく糸くずをふるふると頭を振って払う顔を見て爆神はため息をついた。
「壁のお嬢ちゃんまで…」
 壁神は戸口で立ち尽くす爆神とふと目があって真っ赤になった。
「あ、あの…」
 言いかけてまた首を布の中に引っ込めて、そっと目の辺りまで顔を出した。
「おじゃましてます…」
 真っ赤な壁神の額と桃色の耳と、きゃっきゃと声をあげて喜んで転がっているうり坊たちを見つめて。
 爆神は、子育ては寛容と忍耐、寛容と忍耐、と呪文のように自分に言い聞かせた。

 蓮神と蔦神がうり坊たちと遊んでくれるというので留守を任せた。子供たちの遊び相手をしてくれるのは有り難い。兄の背から離れない壁神が一人で遊びに来るのは珍しい。いいことだと思う。
 しかし、それはそれ、これはこれ。しつけはその時その場所で。
 爆神は息をすうっと吸い込んだ。
「いい加減に…」
 布にまみれた子供たちを叱りつけるために。
「しなさーいッッ」
「にゃッ」
 子供たちはピタッと動きを止めて入り口の大男を見上げた。
 こわい。
 壁神の耳がぺこんと前に折れた。蓮神は目で逃げ道を探したがあいにく唯一の出口には爆神が腕組みして立っていた。
 子供たちは思わず姿勢を正す。
 何も知らないうり坊たちは、楽しそうにころころきゃっきゃと転がっていた。

「また遊んでくれな」
 爆神にいつもの力強い笑顔で送り出された蓮神と蔦神は帰り道で、「…咲兄より怖かったね」と呟いた。

 子育ては寛容と忍耐、しかしそれだけでは足りないのである。