深い深い水の底は射す光もなく、しん、と静まり返っていて、動くものもありません。

 とうに尽き果てたはずの涙が、あの方のことを思うと、泣くまいとするわたしの意志を裏切って次から次へと溢れてまいります。

 水底にゆらゆらと沈んでゆくわたしの涙が、まるでわたし自身をみているようで、ますます涙は止まらなくなるのです。

 

 わたしは慈母の涙を思うのです。

 あの方のいた、光が躍る優しい海を思うのです。命の躍動する力強い海を、輝く海を、思うのです。

 あの方の涙はきっと光を反射する虹色のしずくの中で、ひときわきらきらと真珠のような粒になって、明るい水底を飾ることでしょう。

 夜は月の光を受けて波間に静かにきらめくことでしょう。

 

 あの方のお残しになった美しいものを思ってわたしは涙を流すのです。わたしの涙はとめどなく、暗い暗い水底にただただ流れゆくばかりです。