凍てつく大地の上で、彼は、繰り返し、陽の光にまどろむ夢を見る。

 夢で逢う彼女はいつものように首を傾げて、彼に茫洋とした視線をなげてくれる。ふわふわの真っ白の毛並が差し込む光を受けて金色に輝いた。
 慈母の周りで筆神たちが思い思いにくつろいで、さわさわと笑い声をたてる。
 それを眺めた彼女が、まるで微笑むように眩しそうに目を細め、気持ちよさそうに欠伸をして、ふさふさの尻尾に顔を埋めて丸くなる。
 彼は口を開こうとする。
 自分の声が聞こえない。

 

 ふっと仲間たちの声が遠のいた。

 急に冷たい、強い風が吹き、彼は現実に引き戻される。
 生々しく残る夢の中の光景に、胸の真ん中を熱い刃物に刺されたような痛みが走った。
 あまりにも幸せな、失われたその光景。遠い昔の大切な思い出。
 彼は頭を垂れ、外套を掻き合わせて痛みに耐える。

 彼女はまだ還らない。
 邪神との戦いに持てるすべての力を使い果たし、彼ら分神を宿す力も残らなかった。彼らは彼女の中からはじき出されてナカツクニの各地に散った。
 彼女が長い時間をかけて深い傷を癒やし、再び迎えに来てくれるときまで、彼らはじっと待ち続けなければならない。

 彼は繰り返し夢を見る。氷原の遙か彼方、慈母の元へと還る日を。

 願わくば、と彼は思う。傷ついた慈母に安らかな眠りをお与えください。
 彼女がせめて夢の中では幸せであるように祈って、彼は目を閉じた。